大海原の孤島
地方でこの仕事を始めていつも不思議に思ってきたのは、地方銀行の方々の名刺には個人のメールアドレスが表示されないということ。表示してないだけだろうと思って聞いたら、そもそも部署共通のメールアドレスしかなく、個人のメールアドレスはそもそも設定も賦与されていないということ。僕が社会人になった約40年前はインターネットもメールアドレスもなかったので、そういう牧歌的な世界を知らないわけではないけれど、業務用の個人メールアドレスを付与されたのは、たぶんもう30年近く前だ。以来、メールを前提にしない仕事は想像すらできない世界で生きてきた。しかし、「そうでない世界」がいまも現実世界、しかもビジネスの世界にあるということにかなり驚愕したが、まぁ、金融という、僕が知らない世界なので、そういうこともあるのなぁと、不満はありつつもスルーしてきた。ところが、最近ひょんなことで金融庁が昨年実施した地域金融機関のIT環境を調べたアンケート調査を目にした。それによると、地方の金融機関の実に9割が渉外(=営業)に個別のメールアドレスを割り振っていないらしい。また、昨年4月に金融庁が公表した「『中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)」に対するパブリックコメントの中に「地銀、信金信組においては、未だに顧客との連絡手段として電子メールを利用していないケースが多いと認識している。今般の改正を契機に、電子メール等の積極的な導入を期待したい。」というコメントがあり、これに対し金融庁は「情報通信の手段は、顧客のニーズ、金融機関の規模・特性等に応じて整備されるべきであり、具体的な手段については各金融機関において判断されるべきものと考えます。」と回答している。これはこれでなんだなかなぁ、の典型的な役所言語の回答だが、少なし金融庁が地銀/信金にメールは極力使うなと言ってるわけではないことはわかった。情報セキュリティが厳しく言われる中で、金融界の知られざる掟というかルールがあるのかと思いきや、そんなことはなさそうだ。考えるまでもなく当たり前のことだ。地銀の職員だって今を生きている人たちだ。スマホを持ってLINEもやればインスタもフェースブックもやるだろう。情報が迅速かつ適時に届き返せる便利さを知らないはずはない。ではなぜそれが仕事や組織になったときにメールはダメとなるのか。きっと理由があるはずだ。知ってどうなるという世界でもあるが、なんか日本人として、こんなデジタル化の海原に、メールすら拒否する孤島を許してはいけない気がしてきた。