黒川温泉

阿蘇くじゅう地域はいま新緑が最も美しい季節を迎えている。ここのところ、仕事で黒川温泉に何度か行く機会があってそこも新緑が眩い。黒川温泉といえば、このGW、息子・孫一家に還暦祝いでみんなで初めて泊まった。文字通りLife-time Experience(一生に一度の経験)を満喫した。黒川温泉は、大分と阿蘇を結ぶ「やまなみハイウェイ」からクルマで5分ほど奥に入ったところにある川沿いの温泉郷。旅館30軒が寄り添うように立ち並び、豊かな緑と統一感のある建物群で「ここにしかない」独特の世界観を形にしている。その歴史は実に面白い。阿蘇の人に聞いたことがあるが、その昔、黒川温泉で忘年会をやると言ったら、なんでそんなさえないところでやるのかと怒られたという話を聞いたことがある。確かに40年くらい前は特に特徴のない温泉郷だったようだ。そんな中ひとつの旅館が改革を始めた。建物の周りに雑木を植え外観の質感も上げた。洞窟を掘って独自の露天風呂を始めた。その動きがやがて温泉郷全体の改革運動につながった。個社の看板は撤去され温泉郷の中で統一された看板になった。外観も色やトーンを揃えた。そして有名な温泉手形も始まった。それが1986年。そこから黒川温泉は爆発的な発展期を迎える。いまから20年前には全国から観光客が殺到しピークを迎える。その頃は各宿は増床すれば必ず儲かるということで積極的に設備投資がされた。折からの全国的な温泉ブームということもあって東京からわざわざ黒川温泉に行ってきましたというOLも確かにいた気がする。しかしそのオーバーツーリズムの熱狂を境に、実は黒川温泉の入込数は爾来ずっと下がっているというのは最近知った。6年前の熊本地震で客足を確実に失った。このコロナ禍で客足は温泉手形を始めた35年前くらいに戻ってしまった。どのお宿も過剰ともいえる債務を抱え苦しんでいる。まさにrise and fall。いまはそうやってひとつの時代、ひとつのサイクルの終期に来た感がある。実際、いまどきの若い人は温泉旅館よりはサウナやキャンプ、アウトドアにご執心だ。コアの温泉ファンは十分に高齢化している。決して魔法が解けて馬車がカボチャに戻ったわけではない。黒川温泉の世界観はいまだに上質でオンリーワンだ。しかし、時代も人の価値観も急激に変わってしまった今、もう一度黒川温泉の新しい価値、新しいあり方を考えるときなのだろう。

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