夏の読書①

8月1日に上梓されたばかりの「世界はなぜ地獄になるのか」(橘玲著)をKindleで読んだ。橘氏は最近立て続けに著作を発表しているが回を追うごと「今」という時代が、人間という生き物が進化してきたスピードを遥かに超えて変化してきているので、人間自体がある種の機能不全に陥っているさまを見事に提示してくれる。今回も実に「なるほどぉ」な内容だった。特にトランプ支持者のくだりは面白かった。トランプを支持している白人労働者階級の深い絶望。その絶望から脱出する唯一の方法は、自分たちをこの理不尽な状況に追い込んだ「絶対悪」をアタマの中に創り出し、その絶対悪と戦うトランプをヒーロー視することで、自身の自尊心を取り戻そうとしているという。その説明には思わず唸った。その説明には至極合点がいく。合点がいくほど来年の大統領選挙の帰趨に絶望的になる。僕が生まれて生きてきた20世紀の後半。日本だけではなく世界でリベラリズムと資本主義が身分と門閥で閉鎖した社会に押し込められていた個人を解放し、教育、知識、経験の力によって人は自由に、賢く、豊かになれることを知った。その半面、というか必然というか、結果的には世界各国で人々のあいだにものすごい格差が生まれた。ステータス競争に負けることは人間の「脳」的には文字通り死を意味する、とこの本にはあった。ステータス競争の新たな展開として、いま世界中で吹き荒れているキャンセルカルチャー=社会正義の名の下に成功者を引きずり降ろそうとする様々な試みが、SNSの普及によってもう制御できないレベルになっている。自分の正義は人とは違う。下手に自分の正義だけを声高に主張すれば思わぬ地雷原を踏むことになる。SNSのおかげである意味とっても危険でfragileになったこの世の中を賢く生き抜けとこの本は教えてくれる。なかなか誠実な本音だなあと思った。

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